こたえ (プレイグラフ2013年1月号「法務相談カルテ」掲載)
他社が経営しているパチンコ店の営業を譲り受ける場合には3つの方法が考えられます。
ひとつは、他社を法人ごと手に入れる、つまり、他社の株式を取得して経営権を確保するか、又は合併して自社に吸収してしまう方法です。この方法であれば新たに風俗営業許可を取得する必要がありません。
他社の株式を買い取った場合には、その後の役員交代や店名変更などが想定されますが、これについては公安委員会への変更の届出や許可証書換申請をするだけで足ります。
他社を合併する場合には、必ず合併の登記を行う前に公安委員会から<合併の承認>を受けておかなければ風俗営業許可を失ってしまうという点に注意が必要です。この場合も、合併登記が終わった後で風俗営業許可証の書き換え申請を行います。
しかし、他社が複数店舗を経営していて、そのうちの一店舗についてのみ自社へ営業を譲渡させたいという場合では、これらの方法は採用できません。
そういった場合には、取得対象のパチンコ店の風俗営業を一度廃業して、風俗営業許可証を公安委員会へ返納してもらい、続いて自社が風俗営業許可を取得するという方法があります。
この方法の問題点は、営業を一時的に中断することが避けがたく、新たな許可が取得できるまでの期間は原則として営業できないということと、もうひとつは、新たな許可が取得できない可能性があるということです。
許可が取得できない理由としては「場所の要件」の問題が重要です。風俗営業の許可を受けるためには許可審査時点で「場所の要件」を満たしていなければなりません。これは主に<用途地域の制限>と<保護対象施設の有無>にかかっています。
たとえば営業所が住居専用地域に所在していたり、営業所から一定の距離内に学校が設置されていたような場合には、風俗営業が許可されないことになります。
既存のパチンコ店の営業許可がすでに交付されているとは言えども、その営業の許可後に用途地域が新たに設定されたり、保護対象施設が新たに開設されるといったことは珍しくありません。最近は保育所や教育施設の新設が風俗営業許可の障害となるケースが増えており、しかもほとんどの都道府県条例では、まだ保護対象施設が存在していない状態であっても<将来保護対象施設として使用されることが決定された土地>であれば、保護対象施設がすでに存在しているものとみなされてしまうこととなっています。
つまり、新たに許可を取得する方法には重大なリスクがあることを覚悟しなければなりません。
こういったリスクを避けるために法人を分割する方法もあります。
たとえばA社が3店舗を保有しており、そのうちの一店舗を第三者に譲渡させたい場合には、A社を分割して<A社+B社>の2社の状態にし、B社に1店舗又は2店舗を経営させることが可能であり、A社の分割後にA社又はB社を売却することによって店舗の経営権を移譲する方法(新設分割)がありえます。
また、A社が保有する複数店舗のうちの一部の店舗について、既存のB社に事業を承継させる方法(吸収分割)もあります。
この場合も分割の登記の効力が生じる前に、公安委員会から当該分割についての承認を得ておく必要がありますが、法人を分割する方法であれば、営業を継続しながら風俗営業許可を承継させることが可能です。
法人の合併や分割は会社法が規定する各種の要件を乗り越えて行うこととなり、手続が煩雑でもあるので、あえて法人の合併や分割を避けて風俗営業許可の再取得を目指す場合が少なくありませんが、許可の再取得においては保護対象施設などが原因で許可が取得できないリスクがあることを念頭に置かなければなりません。
<場所の要件>に関するリスクは正しく理解されていないことが多いので、この点をよくご検討いただきたいと思います。
最後に。
分割、合併、株式譲渡の方法に営業権を承継させる場合には、状況によって公正取引委員会への届け出が必要になり、届け出後に30日の分割禁止期間が設定されます。
詳細は以下をご覧ください。